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作品レビュー「ハッピーロードムービー」執筆:垣田篤人

  • tokyoeizobrig
  • 2015年12月10日
  • 読了時間: 2分

natsuko kashiwada

執筆者:垣田篤人


 三木はるか『ハッピーロードムービー』には、三人の「三木はるか」が登場する。一人は、「ハッピーロード」という商店街にある学習塾に勤務し、スーツ姿で、視聴者に商店街の中を案内する「三木はるか」。二人目は、セーラー服を着て、夜の「ハッピーロード」の中を歩きながら「生徒会長選挙用の演説」を朗読する「三木はるか」。三人目は、同じく夜の「ハッピーロード」で、何故か博士っぽい白衣を着て、テレビ番組のレポーターのように視聴者にクイズを出してくる「三木はるか」である。これら三人の「三木はるか」を、作者自身が演じている。


 作者は実際に学習塾に勤めているらしいので、一人目の「三木はるか」は、普段の作者に一番近い「三木はるか」だと言えるかもしれない。カメラに向かって話す口調にも恥じらいや「素」の姿が感じられるし、話す内容もあくまで生活している場所を紹介するものだ。それに比べると、二人目は(生徒会長選挙の話が過去の実話かどうかはわからないが)セーラー服を着た姿からして明らかにコスチュームプレイだし、三人目にいたっては、見た目も、話す内容もどう見ても普段の「三木はるか」と関係はない。この三人の関係性はよくわからないが、このように説明すれば、見ていない人は一人目の「三木はるか」が一番「普通っぽく」見えるのだろうと予想すると思う。だが、実際は全くの逆である。


 この三人のうちで一番演技をしているように見えるのは、一人目の「三木はるか」で、つまり一番うさんくさいのは、一番本物に近いはずの一人目だ。二人目と三人目の「三木はるか」のほうが、明らかに演技をしているにもかかわらず、生き生きとしていて、より「普通」っぽい。


 正確に言うと、この三人は三人とも「三木はるか」であって「三木はるか」ではないのだろう。この三人の中心にある、見えない作者こそが「三木はるか」であって、それ以外にはいない。その他は単なる表象のひとつにすぎないのだ。この作品は「見えないものを感じさせる」という点で成功した作品だと思う。



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