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作品レビュー「Impro.<インプロ>」執筆:池端規恵子

  • tokyoeizobrig
  • 2015年11月7日
  • 読了時間: 2分

natsuko kashiwada

執筆者:池端規恵子


ある撮影クルーが訪れたのは、1人の女性が暮らすアパート。クルー達は、彼女の部屋の周辺にマイクをいくつも設置していく。聞こえてくるのはよく知った音ばかり。蛇口から落ちる水滴の音、アパート前を走るバイクの音、ガスコンロの着火音。その1つ1つの音に合わせ、彼女の体が動き出す。音が、彼女の体を通して“動き”にかわっていく。


やがて音はエスカレートし、たくさん集まり重なっていく。もう単体では聞こえない。すると今度は不思議なことに、私たちは彼女の“動き”から音を探し出そうとする。彼女が体を回転し踵を踏み鳴らす時、たくさんの音の連なりから、この“動き”を想像させる「音」が聞こえるようになってくる。

アパートの周辺から街へ、世界へ、景色はどんどん広がる。もう私たちは、映像から「聞こえる」ようになっている…。


この作品は2人の作家から生まれた。岡村知美と西崎啓介。まったく異なるタイプの2人による、共作第2弾である。


岡村知美は、撮影現場から編集まで幅広く映像制作に関わるディレクター。様々な景色や人々との出会いから素材を見つける。西崎啓介は、アニメ―ションやCGを手がける映像ディレクター。自分の手で一から世界を作り出す作業を行う。


岡村が求める「広い外の世界」と、西崎が見つめる「今いるこの場所」。これらをどう捉え、つなげていくのか。2人の共同作業そのものが、作品の根底を流れるテーマにもなっている。


オーバーハウゼン国際短編映画祭で上映された前作『room』では、部屋に架空の光の街を作ることで世界の定義を捉え直そうとした。今回の作品ではさらに音と体を使い、世界そのものを強く揺さぶる。物理的なこの世界が、今作を通してどう見えるのか。きっと私たちに新しい発見を与えてくれるだろう。


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